私と彼の溺愛練習帳



 ほかにも工場をまわったが、どこも渋い反応で、手掛かりはなかった。
 雪音は肩を落として帰りの電車に乗った。
 どうだった? 
 惣太に結果を聞かれた。母を探し始めたことも今日のことも伝えてあったから。

 ダメだった。
 そっか。また次があるよ。
 惣太は猫が旗を振って応援するスタンプを送ってくれた。雪音はふんわりと笑みをこぼした。

***

「ただいまー」
 部活で疲れて帰った高校生の孫娘は、白髪頭の祖父がスマホとにらめっこしているのを見て首をかしげた。定年退職後も前の職場で再雇用されて働いている元気な祖父だ。ときどき両親にナイショでお小遣いをくれるから大好きだ。

「なにしてんの」
「この人を娘さんが探していてね」
 祖父はスマホの画像を見せてくれた。
「へえ」
 古臭い美人だ、と彼女は思った。

 ふと、ネットで探し物を尋ねたら意外なところから見つかった、というエピソードを思い出した。
「私がみんなに聞いてあげるよ」
 彼女は画像を送ってもらい、自身のアカウントでネットにあげた。

 情報募集中。生き別れた娘が会いたいんだって。21年前から行方不明。最後に来たのは八王子らしい。拡散希望。

 それを見た彼女の友人は娘に同情した。
 拡散希望タグをつけて共有し、再投稿した。
 それを見た友人の恋人は、同情するとともに恋人の関心を買うためにまた投稿した。
 恋人の男友達は、ネットで見つかったらおもしろそうだな、とそれを投稿した。

 拡散希望。
 拡散希望。
 拡散希望。

 次々と画像は共有され、雪音の知らないところで日本中に広がって行った。
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