私と彼の溺愛練習帳
「雪音の後輩からいろいろ聞かされた。雪音をふった俺へのあてつけというか復讐というか、そういうつもりだろう。君が雪音に尽くしているのはわかった。でも彼女は幸せだったかな」

「いつも喜んでくれた。ありがとうって笑って」
「礼を言うのは当然の礼儀だ」
 惣太は言う。
「今はそっとしておいてやれ。必要なら彼女から連絡するだろ」

 必要なら。
 必要じゃないなら連絡しないということか。
 いや、それは当たり前のことだ。
 そもそも連絡せずに帰らなかったのは自分だ。

 だけど、ただ時間が欲しかっただけだ。
 もう言い訳すらできないのだろうか。
 彼女を取り戻すことはできないのか。
 彼女は自分を必要としてくれないのか。
 だけど。

「僕には彼女が必要なんだ」
「勝手だな」
「勝手でいい。自分で探す」
 閃理は背を向けた。

「雪音は!」
 惣太の声に、閃理は振り返る。

「雪音は、幸せになる権利がある。幸せにしてやれる男が隣にいてやってほしいと、俺は思う」
「僕が幸せにする」
 閃理は決意を込めて惣太を見つめた。

 惣太は答えなかった。
 閃理は再び背を向けた。
 惣太はもうなにも言わず、閃理も振り返らなかった。

 空には雪のように白い月が満ちていた。
< 155 / 192 >

この作品をシェア

pagetop