私と彼の溺愛練習帳
「僕じゃ、支えにならない?」
 閃理の目が不安そうに雪音を見る。
「……それ以前に、私がしっかりしてないから」
「だから支えるんじゃん」
 閃理の言葉に、雪音はぽかんとした。

「驚いた雪音さんもかわいい」
 雪音はあきれてため息をついた。
「私のほうが年上だから、支えるなら私のほうなのに」

「もう知ってると思うけどさ」
 閃理は雪音の頭を抱え込んだ。
「人は支えあって生きていくんだよ」

 雪音はとっさになにも答えられなかった。
 人は支え合っている。言われなくてもわかっていることだ。
 金銭的な支えはわかりやすい。
 だけど、心はなにがあれば支えられたというのか。

 自分で立ってこそ、他人を支えられると思っていた。他人に支えられてようやく立つようでは、人を支えることなどできないのではないか。
 だが、自分は本当にわかっていただろうか。

「またなにか考えてる」
 くすっと閃理が笑う。
「考えないわけないよ」

「深く考えないで。ただ僕を必要として。置いていかないで。僕にただいまと言って」
 閃理は優しく額にキスをする。
 こそばゆくて、雪音は体を震わせた。彼の体温が近くにあるのがうれしかった。
 それから閃理をまっすぐに見た。

「ただいま」
 雪音が言う。
「おかえり」
 閃理はぎゅっと雪音を抱きしめた。
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