私と彼の溺愛練習帳
 閃理の背後に、大きなドローンがいくつも浮いていた。
 十機、いや、二十機はあるだろうか。ゆらゆらと揺れるように飛び、閃理たちの席を取り囲む。一番近くにあるドローンは一メートルほどの大きさがあり、風切り音も大きい。プロペラが起こす風で、ジュスティンヌの髪が揺れた。

『なにをするつもり?』
「今はまだなにも」
 答える閃理の声は冷たくて、ジュスティンヌは眉を寄せた。

 子供の頃の彼は天使のように微笑んでくれた。いつからか無表情でいることが多くなった。
 日本に行ったせいだ、と思った。フランスに戻ればまた天使のような微笑が戻ると思った。そうして自分と幸せに暮らすのだ、と。

 うなり続けるノイズが耳につく。自分が聞くのはこんな音ではないはずだ。彼とともに教会のベルを聞くはずだった。自分は白いウェディングドレスを着て、彼は黒いスーツを着て、微笑み合って……。

 小さなドローンが飛んできた。
『きゃあ!』
 それは彼女のスレスレを横切り、また彼女に突進してくる。
『やめて!』
「もう僕たちには近付くな」
『嫌よ、ユベールは私と一緒にフランスへ帰るのよ!』
 直後、ドローンがじわりと動いた。包囲が狭まり、風切り音が近付く。中型の一機が目の前を横切った。

『きゃああ!』
 それを皮切りに、ドローンが彼女の周りを飛び交う。
『やめて!』
「近付かないと約束するならね」
 ジュスティンヌはとっさに答えられない。
 どうして彼がこんなひどいことをするのか、理解できなかった。

 本当にぶつけたりはしない。
 そうは思うけれど、自分の周りを一メートル近い重量物が飛び交うのは恐ろしくて、心臓は恐怖に鼓動を早めた。
< 181 / 192 >

この作品をシェア

pagetop