私と彼の溺愛練習帳

「どうしたの?」
「犯人が……つかまったって」
「お母さんを轢いた犯人?」
「そう。飲酒運転で事故を起こしてつかまって、お母さんのことも話したんだって。ちゃんとつかまった……」
 いっきに体から力が抜けた。ふにゃりと崩れるのを、閃理が抱き留めてくれた。

「悪いことをするやつはそれを繰り返すから。いつか破綻して身を滅ぼすんだ」
 雪音はただうなずき、彼の胸に顔をうずめた。
 長い冬が、やっと終わったように思えた。



 指定された土曜日、閃理は車で迎えに来てくれた。
 雪音は彼が買った雪のピアスをつけていた。
「ピアスあけたの?」
「コンバーターを買ったの。ピアスをイヤリングにできるのよ」
 雪音は自慢げにそれを見せた。
「似合ってる。かわいい」
 雪音は照れたようにはにかんだ。
 その手には数冊のノートがある。

「そのノートは?」
「いいこと日記、持って来たの。すぐには無理だと思うけど、見てみる?」
「どこに隠してあったの?」
「愛鈴咲たちに見つからないように、書き終わったノートは貸金庫に入れていたの。結局、書いてる最中のノートが見つかっちゃったけど」

 貸金庫の存在は、最初に就職した会社の先輩が教えてくれた。お金を払えば誰でも借りられる。だから給料の振り込み口座を新しくしたとき、通帳と印鑑はそこに預けた。普段はネットでお金を管理し、愛鈴咲や久美子にとられないようにした。

「破られてからはスマホで書いていたの」
「いいの? 見られたくないって言ってたのに」
「いいの。閃理さんになら」
「そういうこと言うと襲っちゃうよ」
「……!」
 雪音が顔を赤くするので、閃理はくすっと笑った。
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