私と彼の溺愛練習帳



 会場に着くと、征武が先に来ていた。
「征武、この前の世界大会で優勝したんだよ」
 閃理がこそっと雪音にささやく。
「すごいわ! 優勝おめでとうございます!」
「ありがとう。閃理に鍛えられたからな。きわどい操縦させられて」
「そんなときもあったかな」
 ごまかすように閃理は微笑した。

 雪音はそわそわと周囲を見た。が、若い人ばかりで、閃理の父のように思える年齢の人は誰もいなかった。
 閃理は気にした様子もなく準備を進める。

 イベントは午後七時からだった。
 数えきれないほどのドローンが敷地に並べられ、雪音は驚いた。どうやらドローンのダンスではないらしい。
 すべての準備を終えて、待機する。

「テスト飛行では成功したけど、やっぱり緊張するな」
 征武が言う。
「そうだね」
 閃理は短く答えた。
「突風が吹きませんように、鳥がぶつかりませんように、墜落しませんように」
 スタッフの一人がぶつぶつと祈っていた。

 閃理は何度も風速計を確認していた。
 三日月は夕方に西の空に姿を現し、イベントが始まる頃には沈んでいた。 七時前になるとスピーカーから案内が流れた。

「本日はご来園ありがとうございます。この冬も当園ではイルミネーションを開催してまいりました。ご来場のみなさまの笑顔はイルミネーション以上に輝いておりました」
 スピーカーから園長らしき男性の演説が響く。

「春を迎えるにあたり、本日をもちましてイルミネーションは終了となります。来シーズンにはパワーアップしてまた登場いたします。今後もみなさまにお楽しみいただけるようにスタッフ一同、がんばってまいります」

 言葉はいったんそこで切れた。一瞬の間を置いて、男性は続ける。
「最終日の特別イベントとして、ドローンショーが開催されます。みなさま夜空をごらんください」
 スタッフの間に緊張が走る。

「10、9、8……」
 征武がカウントダウンをする。閃理はノートパソコンの前で待機する。
 七時を目前に、園内の音楽が途切れた。
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