私と彼の溺愛練習帳
「3、2、1」
 一瞬の静寂が園内を支配する。
「ゼロ!」
 閃理がマウスをクリックする。
 すべてのイルミネーションが消えた。
 暗闇に、ため息に似た歓声が上がった。

 次いで、ファンファーレが鳴り響く。
 ぶーん、と大きな音を立ててドローンが舞い上がる。機体のLEDがきらきらと輝き、空中に黄金のらせんが現れた。
 光の柱は空で一点に集まり、色を変え、静かな音楽を従え、地球を描いた。ゆっくりと自転のように回る。
 雪音は声もなく見とれた。

 光が徐々にほどけた。きらめきながら再集合し、ピンク色に光を変えてハートを描く。ハートは緑に変わり、四葉のクローバーになった。再びほどけた光はテーマパークのキャラクターを描く。キャラクターは光の粒になって広がった。

 曲が代わり、ビバルディの冬が流れる。 雪の結晶が描かれる。最初は角板(かくばん)だった。シンプルな六角形だ。これをもとにして結晶は育っていく。

 続いて現れたのは広幅六花(ひろはばろっか)だ。気温が少し高めのときの結晶だ。
結晶は少しずつ形を変えた。樹枝六花(じゅしろっか)角板付樹枝(かくばんつきじゅし)樹枝付角板(じゅしつきかくばん)、枝の多い十二花(じゅうにか)と続いた。その変化は、まるで冬が厳しくなっていくようだった。

 やがて結晶は寄り添う二羽の白鳥になった。
 白鳥がそろって飛び立つ。
 春が始まる。
 そのときだった。
 閃理のスマホが震えた。
 取り出した閃理は画面を見たあと、驚いたように雪音を見た。

「どうしたの?」
 閃理は黙って画面を見せる。
 飛び立つ光の白鳥が写っていた。
 短く文章が添えられていた。

 元気そうだな。俺は今、日本に帰っている。

「父さんから……」
「いるのね。探しましょう!」
 走ろうとする雪音の腕を、閃理はつかまえる。
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