私と彼の溺愛練習帳
ふと視線を感じて振り返ると、惣太がこちらを見ていた。
「惣太さん」
思わず名を呼んでいた。
隣には愛鈴咲がいた。彼女は体の線を強調する服を着て、彼の腕にしがみついている。
愛鈴咲はぽかんと口を開けて閃理を見ていた。
雪音は苦笑した。自分も彼を初めて見たときはあんな感じだったのだろうか。
「あ、いや、これは、たまたまそこで」
惣太は必死に愛鈴咲をひきはがそうとする。
「元カレ?」
閃理は雪音に問い掛ける。
なんでそんなことを聞くの。
首だけで振り返ると、彼はふんわりと微笑した。返事がないことでむしろ悟ったようだった。
彼はふわっと雪音に抱き着いた。
「僕が今カレなの。もう彼女に近付かないで」
閃理が言う。惣太は驚いて二人を見返した。
「なにを!」
慌てる雪音に構わず抱きしめてくる。腕は細いのに力は強かった。
愛鈴咲がむっとしたのがわかった。惣太よりいい男が恋人宣言をしたことでプライドが傷付いたのだろう。ちょっといい気味、と思って雪音は否定をやめた。
「仕事で来ただけなので」
惣太の声には狼狽があった。
少しはショックを受けただろうか。雪音は彼を窺う。自分と同じ痛みを彼も感じてくれただろうか。
「女連れの仕事なんてあるんだ」
閃理はせせら笑う。
「そこで会っただけです」
言い訳する声は暗かった。
惣太の性格からして本当だろうと思った。愛鈴咲が雪音に嫌がらせをするために彼を待ち伏せ、ついて来たのだ。
「あんた浮気してたんだ? でないとこのタイミングで彼氏なんていないよね」
愛鈴咲の非難に、雪音は顔を険しくした。
「違うわ!」
「そう、違う。僕はそいつが彼女を捨てた夜に出会った。出会ってすぐに結ばれたよ。今日もがまんできなくて会いに来ちゃった」
閃理は後ろから雪音の頬にキスをした。
雪音は激しく動揺し、それがゆえに硬直した。