私と彼の溺愛練習帳
風が吹いて、思わず体を震わせた。
とにかく今晩の宿を確保しないと。
そう思って、気がつく。あの青年と行ったホテルの代金をまったく払っていなかった。
どうしよう、とスマホを取り出す。
彼に連絡して、払うべきなんだろう。だが、電話をする気にはなれなかった。
叔母に搾取されていたから雪音の貯金は少ない。そこからホテル代を払ったら生活できなくなってしまう。きっとあのホテルは高いだろうから。
自分と彼は、彼が言うところの事故の被害者と加害者だ。彼に払ってもらって、それが慰謝料ということにさせてもらえないかな。
ビジネスホテルに……いや、ネカフェのほうが安いのか。ネカフェを利用したことはないけど大丈夫だろうか。お金はいつまでもつんだろう。ネカフェに泊って家を探しながら仕事を続ける、そんなことが自分にできるのだろうか。
それとも、このまま凍死したほうがいいだろうか。
でも、東京のこの辺りでは無理だろう。もっと北へ行かないと。
マッチ売りの少女は最期に優しいおばあさんの幻影を見て、幸せに旅立った。
本当に母は自分を置いて旅立ってしまったのだろうか。ならば自分も、優しい両親が迎えに来てくれるだろうか。死んだらつらさは消えるだろうか。
雪に埋もれて死ぬ姿を想像する。ドラマなら、女優ならきっときれいな死にざまだろう。雪の約束、とかタイトルがついていそうだ。
では、自分はどうだろうか。
想像して、鬱な気持ちになる。
きっと美しくはない。周りの迷惑になるだけだ。
はあ、とため息をついたときだった。
「ねえちゃん、どうしたの」
酔っ払いの男性に声をかけられた。40過ぎのように見えた。くたびれた背広に、皺の寄ったズボン。
「やめろよ」
止めるもう一人も酔っているようで、顔が赤い。
「きれいな女が寂しそうにしてたら慰めるのが男の義務ってもんだろ!」
男はへらへら笑う。
「かまわないでください」
雪音は断る。
「せっかく声をかけてやったのに!」
「やめろって」
声を荒げる男を、もう一人が止める。
『そこの人たち、不審者は通報するよ』
雪音の背後から、覚えのある声が聞こえた。
振り向くとドローンが浮かんでいた。
とにかく今晩の宿を確保しないと。
そう思って、気がつく。あの青年と行ったホテルの代金をまったく払っていなかった。
どうしよう、とスマホを取り出す。
彼に連絡して、払うべきなんだろう。だが、電話をする気にはなれなかった。
叔母に搾取されていたから雪音の貯金は少ない。そこからホテル代を払ったら生活できなくなってしまう。きっとあのホテルは高いだろうから。
自分と彼は、彼が言うところの事故の被害者と加害者だ。彼に払ってもらって、それが慰謝料ということにさせてもらえないかな。
ビジネスホテルに……いや、ネカフェのほうが安いのか。ネカフェを利用したことはないけど大丈夫だろうか。お金はいつまでもつんだろう。ネカフェに泊って家を探しながら仕事を続ける、そんなことが自分にできるのだろうか。
それとも、このまま凍死したほうがいいだろうか。
でも、東京のこの辺りでは無理だろう。もっと北へ行かないと。
マッチ売りの少女は最期に優しいおばあさんの幻影を見て、幸せに旅立った。
本当に母は自分を置いて旅立ってしまったのだろうか。ならば自分も、優しい両親が迎えに来てくれるだろうか。死んだらつらさは消えるだろうか。
雪に埋もれて死ぬ姿を想像する。ドラマなら、女優ならきっときれいな死にざまだろう。雪の約束、とかタイトルがついていそうだ。
では、自分はどうだろうか。
想像して、鬱な気持ちになる。
きっと美しくはない。周りの迷惑になるだけだ。
はあ、とため息をついたときだった。
「ねえちゃん、どうしたの」
酔っ払いの男性に声をかけられた。40過ぎのように見えた。くたびれた背広に、皺の寄ったズボン。
「やめろよ」
止めるもう一人も酔っているようで、顔が赤い。
「きれいな女が寂しそうにしてたら慰めるのが男の義務ってもんだろ!」
男はへらへら笑う。
「かまわないでください」
雪音は断る。
「せっかく声をかけてやったのに!」
「やめろって」
声を荒げる男を、もう一人が止める。
『そこの人たち、不審者は通報するよ』
雪音の背後から、覚えのある声が聞こえた。
振り向くとドローンが浮かんでいた。