私と彼の溺愛練習帳
『ドローンで撮影もしてるからね。通報されたくなかったらさっさと帰って』
「なんだとこのやろう!」
 酔っ払いがドローンに向かって怒鳴る。

「やめろって! パトロールのドローンだろ」
 そんなシステム今の日本にあったっけ。雪音は疑問に思いながらドローンを見つめる。

「俺たちはなにもしてないから」
 まともな方の酔っ払いが、もう一人をひきずるようにして駅に向かって歩いていった。

『雪音さん、大丈夫?』
 ドローンから聞こえるのは、確かに閃理の声。
『近くのビルの屋上にいるから来て。逃げたらドローンで追うからね』
 雪音はドローンがからまったときのことを思い出す。またあんな目に遭ったら、今度はベリーショートにするしかなくなるだろう。

 告げられたビルの屋上へ行く。通常は立入禁止だろうに、入ることができた。
「また会えた」
 閃理はうれしそうに雪音を出迎えた。
 ホテルの代金を請求されるんだろうか。だから彼は連絡したかったのだろうか。今の手持ちはいくらだっけ。

「ちょうど仕事が終わったんだ。イルミネーションの撮影。たまたま雪音さんを見つけたんだけど、タイミングが良かった」
「閃理、そちらが?」
 知らない声がかかった。
 閃理と同年齢のようだ。明るい茶色の髪はつんつんとしていて、元気なやんちゃ坊主に見えた。

「そうだよ。雪音さん、こっちは俺の仕事の相棒で長浜征武」
「よろしく」
 にかっと彼は笑った。
「……どうも」
 雪音は軽く頭を下げた。

「……ホテル代ですか?」
 雪音がたずねると、閃理は驚いたあとにくすっと笑った。
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