私と彼の溺愛練習帳
雪音は結局、彼の家から職場に通った。
行ってきますと言うと、行ってらっしゃいと返事がくる。ただいまと言うとお帰りと返ってくる。それは雪音の心を温かくした。
彼は朝食も夕食も毎日用意してくれて、掃除も雪音にはさせなかった。在宅仕事だから時間があるという。
叔母たちと住んでいるときは家事はすべて雪音の担当だったから、なにもしなくていいというのは落ち着かなかった。
洗濯は断固として断った。下着を見られたくないからだ。
「遠慮しなくていいのに」
「遠慮じゃないから」
「まとめてやったほうが水道代も安くすむけど?」
言われて、雪音は言葉につまる。
「困ってるの、かわいい」
「からかわないでよ」
「ふてくされる雪音さんもかわいいよ」
そうして、彼は夕食後には必ずリビングのソファで雪音を抱きかかえて座り、彼女の頭を撫でた。
「雪音さんは頑張った。偉いよ。今日も優しくて良い子だった」
毎日そうしてくれるから、なんだか照れ臭い。
三日後、我慢できなくなって抗議した。
「子供じゃないんだから」
「あなたが毎日やってって言ったのに?」
「そういう意味じゃない」
あのとき言ったのは頑張っている毎日を褒めてほしいという意味で、褒めるのを毎日やってほしいと頼んだわけではない。
「ダメだよ、約束したんだから。ちゃんと褒められて」
彼はまた雪音を抱きしめながら頭を撫でる。
ダメだ、こんなの。
こんなに甘やかされたら、ダメな人間になってしまう。
だけど彼の手が温かくて、雪音は振り払うことができなかった。