私と彼の溺愛練習帳
雪音が休みの日、ショッピングに連れ出された。
彼は雪音が遠慮するのもかまわずに次々と服を買い、化粧品を買った。
次は靴だ、とショップに連れて行かれる。
かわいい靴を手に、閃理は試着用の椅子に彼女を座らせる。
彼は雪音の足に手を伸ばし、そっと靴を脱がせた。
「なにするの!」
「なにが?」
言いながら、彼は店の靴を彼女に履かせる。
顔を上げた彼の顔には邪気などかけらもなく、ふんわりと自分を見上げている。
「靴、一足だけだと困るでしょ?」
「だけど」
「立ってみて。履き心地は?」
言われるままに立ってみる。ちょうどいいサイズで歩きやすそうだった。
「よさそうだね。これもらいます」
返事を待たず、彼は店員に言った。
増えた紙袋を閃理が抱えて店を出る。
「なんでこんなに」
雪音は戸惑う。閃理は出入り口の消毒液をつけ、手をこすりながらふんわりと笑った。
「あなたがうれしいこと全部するから」
「うれしくない。困る」
雪音が言うと、彼は残念そうに眉を下げた。
だから、慌てて雪音は付け足す。
「買ってくれた分だけでうれしいから」
「雪音さんは優しいね」
また頭を撫でられる。
年下なのに、と雪音はうつむく。
なのに彼のほうが背が高くて、手が大きくて、頭を撫でられるとうれしくなってしまう。
「そして、愛されるのに慣れてないね」
「そんなことないわ」
ちゃんと母に愛されていた。あまり覚えていないが、父とも仲が良かったと記憶している。
「あるよ。僕と練習しよう。雪音さんが溺愛される練習」
「なにそれ」
彼はきっと面白がっているのだ。年上を翻弄するのが楽しくて、恋をしたような気になっているのかもしれない。
「お金、いつか返すね」
「返さなくていいよ。これでも僕、けっこう稼いでるんだよ?」
いたずらっぽく、彼は言った。
「ドローンアーティストってそんなに儲かるの?」