私と彼の溺愛練習帳
「ちょっと!」
「おとなしくして」
 彼は足の爪の手入れをして、またポリッシュを塗った。

「きれいに塗れた」
 彼は雪音の足を掲げるようにして甲に口づける。
「——!」
 思わず足を動かそうとして、彼にぐっと押さえられた。

「ダメだよ、動いちゃ。ポリッシュが僕についちゃうから」
 ソファの雪音に、彼はのしかかるように迫る。のけぞって距離をとろうとするが、下手に動けない。そのままソファに押し付けられた。

 首筋にキスされて、雪音はびくっと震えた。
「素直でかわいい。食べちゃいたい」
「意地悪!」

「ふだんは我慢してるんだから。これくらい許してよ」
「我慢ってなにを?」
「あなたを食べるのを。僕、若いんだよ。性欲ありあまってるの」
 彼は耳にそっと囁く。
 赤くなる雪音に、彼はふふっと笑う。

「からかわないで!」
「かわいいよ。こんな姿、ほかの男には見せないで」
 彼は手を添えて雪音の頬にキスをした。
 結局、トップコートを塗って仕上げるまで彼に翻弄され続けた。

「出来たよ。終わり」
 彼は雪音の手に口づけ、抱きしめた。
「……私に期待しないで」
 雪音は言った。

「どういうこと?」
 体を離して、閃理はきく。
 雪音はうつむく。

「私、そういうことしたくないから」
「したくないのに僕に抱いてって言ったの、あのとき」
「……」
 雪音はさらにうつむく。

「つらい?」
 雪音はうなずく。
< 43 / 192 >

この作品をシェア

pagetop