私と彼の溺愛練習帳
「大丈夫?」
閃理が優しくたずねる。
「緊張した……」
急に街のざわめきが戻ったように聞こえた。心臓がばくばくして落ち着かない。
伶旺が撃退された。
大きく口を開けて待ち構えていた厄難が去った。これは現実だろうか。より大きくなって戻って来る予兆ではないのか。
心がふわふわして、落ち着かなかった。
「帰ろう」
閃理はまた手をつないできた。
頼もしくて、うれしくて、だけど、と雪音は思う。
まるで本当に恋人同士のようだ。そうじゃないのに。
「ねえ……」
それ以上言えなくて、雪音は黙る。
「なに?」
閃理はふんわりと雪音を見る。
「……錯覚しちゃうよ」
雪音の胸が、ぎゅっと痛くなった。
「なにを?」
雪音はうつむいた。これから言うのは自分を地面に叩きつける言葉だ。だけど、言わなくては。今まで閃理がくれた幸せは、メインディッシュの苦痛のための前菜にすぎなかったのだろう。
「愛されてるって錯覚しちゃう。だから、やめて」
閃理はすぐには答えなかった。驚いている気配が伝わって来た。
彼はしばらく沈黙して、それからふわっと雪音を抱きしめる。
「錯覚じゃないよ」
「嘘……」
「溺愛するって言ったよね?」
彼はくすくすと笑うように言った。
「またからかって」
「からかうのは好きだからだよ」
「子供みたい」
「嫌?」
「嫌よ」
「じゃあなるべくやめる」
閃理が優しくたずねる。
「緊張した……」
急に街のざわめきが戻ったように聞こえた。心臓がばくばくして落ち着かない。
伶旺が撃退された。
大きく口を開けて待ち構えていた厄難が去った。これは現実だろうか。より大きくなって戻って来る予兆ではないのか。
心がふわふわして、落ち着かなかった。
「帰ろう」
閃理はまた手をつないできた。
頼もしくて、うれしくて、だけど、と雪音は思う。
まるで本当に恋人同士のようだ。そうじゃないのに。
「ねえ……」
それ以上言えなくて、雪音は黙る。
「なに?」
閃理はふんわりと雪音を見る。
「……錯覚しちゃうよ」
雪音の胸が、ぎゅっと痛くなった。
「なにを?」
雪音はうつむいた。これから言うのは自分を地面に叩きつける言葉だ。だけど、言わなくては。今まで閃理がくれた幸せは、メインディッシュの苦痛のための前菜にすぎなかったのだろう。
「愛されてるって錯覚しちゃう。だから、やめて」
閃理はすぐには答えなかった。驚いている気配が伝わって来た。
彼はしばらく沈黙して、それからふわっと雪音を抱きしめる。
「錯覚じゃないよ」
「嘘……」
「溺愛するって言ったよね?」
彼はくすくすと笑うように言った。
「またからかって」
「からかうのは好きだからだよ」
「子供みたい」
「嫌?」
「嫌よ」
「じゃあなるべくやめる」