私と彼の溺愛練習帳
「なるべくって」
 雪音が顔をあげると、彼が目を細めて雪音を見ていた。
「愛してる」
 イルミネーションの中で、彼は言った。

「どうして」
 雪音は目を見開いた。
 彼は月光が優しく地上を照らすように彼女を見つめた。

「好きになるのに理由なんている? っていう使い古されたセリフを思い出した」
「でも……」
「しいて言うなら、あなたが素敵だから」
「私のどこが」
「初めて見たときから気になってたよ。あなたは頑張り屋さんで優しくて、大好きだ」

「そう言ってくれるのは私が前に頼んだからでしょう?」
「違うよ。さっきも僕をかばって前に出た。優しい証拠だ」
「だって、当然のことだから」
「当然のようにできる人は少ないんだよ」
 閃理はまた微笑した。

「そんなの、とっさのことだから……」
「ねえ、わかってる?」
 焦れたように言い、閃理は雪音の頬に手を当てて顔を向けさせる。

「僕、愛の告白をしたんだけど」
 雪音は顔を赤くして目をそらした。

「私、七つも上なのよ」
「関係ないよ」
 閃理は断言する。
「あなたがほしい」

 なにをどう答えればいいのかわからなくて、雪音は顔をそむけようとした。が、閃理の手がそれを許してくれない。

 ヘーゼルの瞳にまっすぐな熱を感じ、雪音の鼓動が早くなった。
 なにも考えずに今すぐ彼にとびこめたら、どんなにうれしいだろう。

「返事を聞かせて?」
 閃理が言う。

 街は笑いさざめく人であふれている。なのに雪音には時間が止まったように見えた。
 イルミネーションに照らされた彼は月などではなく、閃理だ。

 街の明かりが、たたずむ二人のシルエットをくっきりと浮かび上がらせていた。
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