私と彼の溺愛練習帳



「おかえり。ごはんできてるよ」
 いつものように閃理は微笑んで出迎えてくれた。
「おなかすいたから、先に食べちゃった」
「いいよ」
 いいよって、何様だろう。居候は私なのに。
 自分に嫌気がさした。

 ダイニングに行くと、リビングからテレビの音が聞こえた。
「おもしろい番組やってた?」
「この前、バラエティの収録でドローンを飛ばしたから確認してた」

「テレビに出たの!?」
「ドローンがね」
 平然と彼は答える。
 やっぱりすごい人なんだ、と雪音はため息をついた。
 そんな人が自分を好きだなんて、あるわけない。だけど、あのとき彼は確かに自分に「愛してる」と言ってくれた。

「またなにか考えてる」
 後ろから抱きしめて、彼は雪音の頬にキスをした。
「思い詰めてもいいことないよ」
「そうだけど」
 テレビではニュースが始まっていた。

『行方不明となっているのは』
 はっとしてテレビを見た。知らず、体が強張る。

『……さんは八十歳、朝、家を出てから足取りがわからないとのことです。服装は……』
 別人だ。
 雪音はがくっと肩を落とした。
 捨てられたのよ。
 嘲笑う叔母の姿が蘇る。

「大丈夫?」
 彼が抱きしめる手に力をこめた。
「……大丈夫」

 人なのに。
 なのに、捨てたり拾ったりするものだろうか。
 実際、自分は捨てられた。惣太に、叔母に。そうして、彼に拾われた。
 だけど。
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