私と彼の溺愛練習帳
「どうしたの?」
「羽が少し欠けてる」
 彼は機体を斜めにしたり横にしたりして確認し、くるくると指で羽をまわした。

「そんなことあるんだ」
「河原で飛ばしてたときに突風で草むらにつっこんじゃって。茎の硬い奴があったんだと思う。昼間に見たときは大丈夫そうだったんだけど」

「風に弱いんだね」
「だから風速計で計ってから飛ばすんだよ」
「そんなことしてるんだ」
「この機体は風速10メートルまで耐えられるけど、国土交通省の規定では飛ばせるのは風速5メートルまでになってる」
「へえ」
 そんなこと、閃理に説明されるまで知らなかった。

「ちなみにこれはクアッドコプターとも言うんだよ。羽が四枚だから。よく見かけるのはこのタイプのドローンだね」
「種類があるんだね」
 雪音はしげしげと眺めた。

「やってみる?」
「え?」
「小さいのなら部屋で飛ばせるよ」
 彼はテーブルにドローンを置くと、取りに行った。

 戻って来た彼は小型ドローンを雪音に持たせた。片手に載る大きさで、軽かった。前後で羽の色が違っていて、周りには円形のガードがついている。

「おもちゃみたい」
「トイドローンとかミニドローンとか呼ばれてるやつ。室内を飛ばす前提で作られてて、これを部屋で遊ぶだけなら機体の登録も資格もいらないよ」

「普通は資格がいるの?」
「操縦だけならライセンスはいらないんだよ。だけど飛ばすには必要だよ」
「意味がわからない」
「簡単に言うと、資格が必要な場合とそうじゃない場合があるんだ」

「あなたは持ってるの?」
「僕はとったよ。普通に飛ばすだけなら現状は民間資格でもいけるけど、有人地帯はレベル4だから将来的には必要になるし、企業的にも有資格者って言った方が安心してもらえるしね。国家資格、一等無人航空機操縦士。こう言うとなんかすごそうじゃない?」

 閃理はいたずらっぽく笑った。
「実際、レベル4の規格を満たす機体は今のところ日本に一機しかないんだけどね」
「なんだかややこしいのね」
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