私と彼の溺愛練習帳
「そうだね。あとはFPV対応ドローンには無線の資格が必要だからそれもとった。陸上特殊無線技士。これも響きがすごいよね」
「実際にすごいじゃない。テレビに出たり」
「練習すれば雪音さんもできるよ」
「そうかなあ」
 まったくできる気がしない。プロポと呼ばれるコントローラーはラジコンのものに似ていた。

「FPVってなに?」
「FPVは一人称視点って言われてる。ファースト・パーソン・ビューの略。ドローンから見た視点で映像を見られる。専用のゴーグルを使うんだ。プロポで画像を見られる機体もあるし、ドローンによっていろいろ」

 彼がスイッチを入れたりペアリングしたりなどの準備をして、ドローンを水平に床に置いた。

「これはオートホバリングもついてるから、操縦しやすいんじゃないかな」
 そのあと、ソファに座る雪音を抱えるように座る。
「カタカナのハの字みたいに両方のレバーを下に向けて」
 その通りにすると、ドローンのプロペラが回転を始めた。

「けっこう音がうるさいのね。モーターのせい?」
「プロペラが原因だね」
 プロペラと空気の摩擦音で、蜂が飛ぶような音を立てている。

「右のレバーをゆっくり奥に倒して」
 言われて、その通りにそっと動かす。ドローンがふわっと浮いた。

「飛んだ!」
 雪音は思わず閃理を見た。
 彼は穏やかに笑って見つめ返す。

「右のレバーが上昇と下降と左右の移動。左が前進後進と旋回(ロール)
「ロールって?」
「機体を右に回したり左に回したりすること。とりあえず動かしてみて。やってみるのが一番だよ」
 困って、とりあえず適当にレバーを動かしてみる。

 思うようにはいかなかった。まっすぐ進めたくても斜めに進むし、なぜか正面がずれていく。旋回のレバーを動かすと、その場で振り向くように回った。

 ふいに、エアコンが思い出したように動く。
 風にあおられて、トイドローンのバランスが崩れた。
 そのまま壁に激突してしまう。
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