私と彼の溺愛練習帳
「ごめん!」
 雪音は謝り、思わず立ち上がった。トイドローンは下に転がったまま止まっている。
「大丈夫。エアコンに負けたね」
 閃理はソファを降りてトイドローンを拾いに行った。

「壊れなかった?」
「大丈夫そうだね」
 あちこちを確認しながら閃理は言った。

「ほんとに、ごめん」
「安いやつだから気にしないで。壊れたら買い直せるし」
 雪音は憂鬱にうつむいた。
「どうしたの?」
「壊れたら、普通は捨てるよね」
 閃理はふんわりと苦笑して隣に座り、彼女を抱きしめた。

「修理して使うこともあるよ」
「でも、普通は壊れたら捨てるでしょ? 飽きたときも捨てるでしょ?」
「仕事でなにかあった?」
 雪音は顔を上げられない。

 洗濯機を買い直しに来た女性が頭をよぎった。
 壊れたのはお店で引き取ってもらえるのよね。
 壊れた自分は、どこに引き取ってもらえるのだろう。
 洗濯機ならその後は廃棄処分だ。
 なら、自分は?

「捨てないといけないの?」
 閃理が言うと、雪音は顔をそらした。
「あなたは、捨ててほしいと思ってるの?」
 雪音は黙って首を振った。
「だったらそんなこと言わないで」
 閃理は雪音の髪を優しく撫でた。

「父から初めてもらたドローン、古くて壊れてるけど、今でもとってあるよ。大切なんだ」
 まただ、と雪音は思う。
 甘すぎるココア。甘すぎるからこそ、喉が渇いてしまう。
 なのに、またココアがほしくなる。

 雪音は閃理に頭をもたせかけ、あきらめたように息をついた。
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