私と彼の溺愛練習帳
食事に誘われ、出掛けた。穏やかな彼のことを、会うたびに好きになっていった。大卒で大手メーカーに勤める彼は、高卒で派遣の雪音には輝いて見えた。
なんどか食事に行ったあと、昼間のデートに誘われた。
海の見える公園で告白された。
そのとき雪音は言った。あるできごとから大人の関係に抵抗があることを。だからほかの人のほうがいいかもしれない、と。
「待つよ。君がいいと言ってくれるまで」
彼はまた優しく微笑んだ。
うれしくてたまらなかった。
彼は人生で二人目の恋人になった。
今となっては、と雪音は思う。
体などどうでもいい、という人と付き合うべきだった。そんな人がいないのはわかっているけど。
顔を上げると、街は輝いていた。
イルミネーションだ。
駅前の木々にはLED電飾が施され、黄金の光が瞬いていた。
恋人たちが寄り添い、笑いあって通りすぎる。
クリスマスも新年も終わったと言うのに。
私は今ふられたばかりだというのに。
光がぼやけ、景色がじんわりとにじんだ。
いったんあふれたそれは、止めることができずにこぼれ、頬を濡らす。
「どうして……」
頭を抱えると、頭皮に爪が刺さった。鈍い痛みが走るが、その程度では涙を止められない。
わかっている。
自分が悪いのだ。
いい年をして、体の関係を拒んだから。
彼は最初、待つよ、と微笑んでくれた。
だが、彼は三十三歳の健康な男性だ。
いつまでも体を許さない自分に、待ちきれなかったのだろう。
彼は誠実であろうとした。だが、自分が応えられなかった。
涙が嗚咽を含み、雪音がイルミネーションから逃げようとしたとき。
がつん、と背になにかが当たった。髪が引っ張られる。
「痛い!」
うなりを上げながら機械が止まる音がした。
なにか重いものが髪にひっかかっている。
そう思って手を伸ばす。つかんで手前に持ってこようとするが、けっこう大きくて、半分しか動かない。
「これ……ドローン?」
ドローンがどうして自分にぶつかってくるのか、理解できなかった。
だが、実際にドローンは自分にぶつかり、髪が羽にからまってとれなくなっている。一辺が五十センチはありそうだ。重さもある。一キロか二キロほどの重量で、手で支えないと髪が引っ張られて痛い。
弱っているときに限って、嫌なことが起きる。
雪音は顔を歪ませ、また涙をこぼした。
なんどか食事に行ったあと、昼間のデートに誘われた。
海の見える公園で告白された。
そのとき雪音は言った。あるできごとから大人の関係に抵抗があることを。だからほかの人のほうがいいかもしれない、と。
「待つよ。君がいいと言ってくれるまで」
彼はまた優しく微笑んだ。
うれしくてたまらなかった。
彼は人生で二人目の恋人になった。
今となっては、と雪音は思う。
体などどうでもいい、という人と付き合うべきだった。そんな人がいないのはわかっているけど。
顔を上げると、街は輝いていた。
イルミネーションだ。
駅前の木々にはLED電飾が施され、黄金の光が瞬いていた。
恋人たちが寄り添い、笑いあって通りすぎる。
クリスマスも新年も終わったと言うのに。
私は今ふられたばかりだというのに。
光がぼやけ、景色がじんわりとにじんだ。
いったんあふれたそれは、止めることができずにこぼれ、頬を濡らす。
「どうして……」
頭を抱えると、頭皮に爪が刺さった。鈍い痛みが走るが、その程度では涙を止められない。
わかっている。
自分が悪いのだ。
いい年をして、体の関係を拒んだから。
彼は最初、待つよ、と微笑んでくれた。
だが、彼は三十三歳の健康な男性だ。
いつまでも体を許さない自分に、待ちきれなかったのだろう。
彼は誠実であろうとした。だが、自分が応えられなかった。
涙が嗚咽を含み、雪音がイルミネーションから逃げようとしたとき。
がつん、と背になにかが当たった。髪が引っ張られる。
「痛い!」
うなりを上げながら機械が止まる音がした。
なにか重いものが髪にひっかかっている。
そう思って手を伸ばす。つかんで手前に持ってこようとするが、けっこう大きくて、半分しか動かない。
「これ……ドローン?」
ドローンがどうして自分にぶつかってくるのか、理解できなかった。
だが、実際にドローンは自分にぶつかり、髪が羽にからまってとれなくなっている。一辺が五十センチはありそうだ。重さもある。一キロか二キロほどの重量で、手で支えないと髪が引っ張られて痛い。
弱っているときに限って、嫌なことが起きる。
雪音は顔を歪ませ、また涙をこぼした。