私と彼の溺愛練習帳
「当てるようなヘマするかよ」
 征武は笑った。が、続けて言う。
「とはいえ、レースよりひやひやしたよ」
 征武はドローンレースでの上位入賞の常連だ。

「お前が親友でよかった」
「礼ははずめよ」
「有料かよ」
 お互いに笑いあい、電話を切った。
 


 熱いシャワーを浴び、雪音は思う。
 恋人、と言われた。
 彼の一時の感情であってもうれしかった。

 頼ってくれてうれしい。
 彼はそう言ってくれた。
 頼っていいのだろうか。
 助けてくれた。信用していいのではないだろうか。

 思って、雪音はしゃがみこんだ。
 今まで、誰も助けてくれなかった。
 なのに、彼は助けてくれた。住む場所を、食事を、服を、温もりをくれた。
 嗚咽がおさえられず、雪音はそのまま涙をこぼした。



 長いシャワーを終えて出ると、いつものように閃理が洗面所で髪を乾かしてくれた。
 面倒だろうに、と鏡越しに見ると彼は楽しそうだった。
 雪音は困惑した。好きだから。ただそれだけでこれほどしてくれるものだろうか。

「はい、終わり」
 言って、閃理はドライヤーのスイッチを切った。
「どうして、こんなにしてくれるの?」
 つい、聞いてしまった。
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