私と彼の溺愛練習帳
雪音が危険な目に遭った翌日、閃理は征武からもらったデータを加工、編集した。
征武がうまく誘導し、その言葉を引き出してくれていた。
「俺は下手じゃない! 小さくない!」
それを面白おかしく編集した。顔にはモザイクをかけた。
見る人が見ればわかる。だが知らない人にはわからない。一見すると友達同士の悪ふざけ動画だ。
それを彼の現在の恋人のSNSに匿名で送った。伶旺のアカウントはすぐに特定できたし、そこから恋人を辿るのは簡単だった。
彼女は面白がってネットに投稿し、友人間で広がった。
下手で小さいって。
三秒で終わってたりして。
仲間たちは笑い、盛り上がった。
伶旺はコメント欄に「俺は下手じゃない!」と記入し、さらに笑いを誘った。
数日後、伶旺はアカウントを消した。さらに数日後、新しいアカウントができていた。
俺にはこの街は小さすぎる。
彼はそうつぶやいていた。
「市民課の窓口にいたから引っ越しだろうね」
閃理は言った。そう判断していいだろう。ネットのつぶやきと矛盾がない。
「お母さんの元職場に行ってみよう」
閃理の言葉に、雪音はうなずいた。
職場は変わらずそこにあった。
ぬいぐるみや雑貨などを企画・販売するスタフトイ・シナノデザインズという会社だった。母はそこで営業をしていた。
受付で用件を伝えると応接室に案内された。
当時の同僚だという人が現れ、水崎修です、と名乗った。人の好さそうなおじさんだった。現在は営業部長をやっているという。
雪音の自己紹介に、小萩さんの娘さんか! と驚いた。
「そちらは弟さん?」
「恋人です」
すかさず閃理が訂正する。
「ちょっと!」
普通、こういうときは友人ですとごまかすだろうに。
雪音が慌てるのを見て、水崎は苦笑した。