私と彼の溺愛練習帳
「愛鈴咲からだわ」
 メッセージが届いていた。
「着信拒否にしてないんだね」
「家のことで連絡が来るかもしれないから」
 そう言って、メッセージを開く。

「愛鈴咲が、荷物をとりに来いって」
 雪音はうつむいた。またなにか企んでいるに違いない。

 荷物はあきらめていた。閃理がたくさん買ってくれて生活に不便はない。それでも自分のものを取り返したい気持ちもあった。

 閃理は美しい顔を険しくした。
「一緒にいく。でも、僕が行くのは内緒で。警戒されるから」
「一人で行けるわよ」
「荷物を運ぶなら車があったほうがいいでしょ?」

 閃理は雪音の頬にキスをする。
 雪音はおそるおそる彼を見た。
「……甘えていい?」
「大歓迎」
 うれしそうに、彼はそう言った。



 二日後、雪音は荷物を取りに行った。
 閃理の車は街乗りとして人気の国産ハイトワゴンだった。
 荷物は衣装ケースが二つだから、それで充分だった。

 インターホンを押すと久美子が出た。
「荷物を取りに来ました」
 今さら、とか文句を言いながらぶちっと切れ、玄関が開く。

「初めまして」
 がっ、と閃理はドアを押さえた。
 久美子はぽかんと彼を見た。
 その隙に雪音は中へ入る。

「雪音さんとお付き合いしています。ご挨拶をと思いまして」
 閃理はにこやかに言う。
「あら、そうなの」
 久美子は慌てて髪を撫でつけながら答えた。
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