私と彼の溺愛練習帳
雪音は閃理に内心でお礼を言った。
彼が久美子を引き留めたおかげですんなり入れた。
しばらく帰らないうちに家は汚くなっていた。掃除をしていないようだし、荷物が散乱して汚屋敷の様相を呈していた。
両親の建てた家が、と心が苦しくなったが、今は見ないふりをした。
自室だった場所に行く。
積み上げられた段ボールの山が雪音を出迎えた。
久美子も愛鈴咲も捨てられない人だった。その保管場所に困り、雪音の部屋に放り込む。雪音がそれを捨てると怒り狂う。だからスーパーでもらってきた段ボールに詰めて慎重に積み上げ、その隙間で生活していた。崩れたら圧死という結末もありえた。
山の隅から衣装ケース二つを引っ張り出す。
そして、愕然とした。
慌ててふたをあける。
中の服はすべて切り刻まれていた。
「そんな」
古着や激安ショップのセール品がほとんどだったが、大切に着て来たものだ。
「ほんとに取りに来た」
嘲る声に振り返ると、ドアのそばに愛鈴咲がいた。
「そんなゴミ、さっさと持って行ってよ」
雪音はぐっとこらえて衣装ケース二つを持ち上げた。
せめて、きちんと捨ててあげたいと思った。ここでゴミの山に埋もれさせたくない。
愛鈴咲とすれ違うとき、足をひっかけられた。
雪音は大きな音を立てて衣装ケースごと転んだ。
「ばっかみたい!」
愛鈴咲はげらげらと笑った。
「雪音さん!?」
物音に驚いた閃理の声が聞こえた。
久美子の止める声にかまわず、彼が二階へ駆けあがって来る。
「大丈夫?」
雪音が顔を上げると、心配そうな閃理の顔があった。
「大丈夫」
雪音は痛みをこらえて立ち上がり、愛鈴咲をにらんだ。
「こわーい。助けてぇ」
愛鈴咲は閃理にすり寄った。