私と彼の溺愛練習帳



 雪音は歩道の端に寄り、からまったドローンと格闘していた。
 どれだけほどこうとしても、ほどけない。

 なんでこんな目に。
 涙がさらにあふれてくる。
 ドローンを街中で飛ばすのは禁止されたんじゃなかったっけ。
 なのに、なんで。
 行き交う人々が奇異の目で自分を見て、通り過ぎる。

 情けなくなって、うずくまった。
 誰にも助けてもらえない。
 助けてもらえるはずない。

 そんなこと、子供の頃からわかっていたはずだ。
 一番信頼していたはずの恋人ですら、心を翻した。
 うう、と嗚咽を漏らしたとき。

「ごめん、大丈夫!?」
 若い男性の声がした。
 顔を上げると、心配そうな顔がこちらを見ていた。

 一瞬、ぽかんとした。
 彼の周りだけ空気が違っていた。
 月の光の精霊、とファンタジーなことを思った。
 柔らかな髪が光を受けて薄い金色に輝いていた。日本人離れした顔立ちは中性的で、だからよけいに別世界の人間に見えた。

「僕、そのドローンの持ち主で……これ、名刺」
 渡されたそれには、ドローンアーティストSENRIと書かれていた。その下に風泉閃理とも書かれていて、電話番号などが記載されていた。

「ごめん、今ほどくね」
 彼は髪に手を伸ばす。
 しばらく挑戦してみるが、なかなかほどけないようだった。

「ちょっと待って、すごい絡まってて。これほどいたら、事故で警察に届けるから」
 警察。
 その単語に、雪音は怯んだ。悪いことなどなにもしていないが、警察にはなんだか怯んでしまう。

「そこまでのことじゃないです。ケガもないですし」
「だけど」
 彼の声に戸惑いが混じる。
 彼もまた真面目なのだな、と雪音は思った。
 だけど、真面目だからといって浮気しないとは限らないのだ。
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