私と彼の溺愛練習帳
 雪音は持ち帰った衣装ケースの中身をゴミとしてまとめた。
 きちんとゴミとして出す。それで供養ができるような気がして、気持ちにもけじめがつけられた。

 不思議と、以前よりつらくなかった。
 以前なら怒りと悲しみで煮えたぎってやるせなくて、感情を持て余し、それもつらかった。

 閃理がいてくれるから。受け止めてくれるから。
 それどころか、彼はなんども守ってくれた。彼となら幸せになれるのだろうか。

 思って、どきっとした。
 急に鼓動が早くなり、景色が鮮明になった。
 深呼吸して、自分を落ち着かせる。
 今、もしかして、私は未来を信じたのだろうか。

 閃理を見る。彼はいつも通りににこやかにココアを鍋にかけていた。
 やわらかな髪、ヘーゼルの瞳。繊細なガラス細工のような顔立ちに、風にも負けそうな細い体。なのに、彼は雪音よりも確かに地に足をつけ、ふきつける逆風からかばってくれた。

「できたよ」
 振り返って彼が言う。
 雪音ははっと我に返った。

 二人でソファに座ってそれを頂いた。
 閃理はココアにスパイシーなクッキーを添えてくれた。ピリッとする味が、ココアの幸せな甘さを引き立ててくれた。

「御札がいっぱい貼ってあったね。なんで?」
「叔母が怖がりなの。おじさんも愛鈴咲も幽霊を信じてないけど。子供の頃はなにもないところを見つめたり、なにかいるって言って怖がらせたりしたわ」
 幼い雪音の、せめてもの復讐だった。

「愉快な人たち。今までに会ったことのない人種だった」
 閃理はやわらかに笑った。
 今まで、と雪音は思う。今まで彼はどのような人生を過ごしてきたのだろう。

「聞いても良い?」
 雪音は閃理を見た。
「なに?」
「あなたの昔のこと」
 閃理は困ったように微笑した。
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