私と彼の溺愛練習帳
 まるでサイバーパンクのようだった。
 暗い中、直線的な青と赤紫のLEDがデジタルで未来的だ。
 FPVゴーグルというヘッドマウントディスプレイをつけた操縦者がゲーミングチェアに座っていた。その席もまたLEDで装飾されている。

「ゴーグルはリアルタイムでドローンからの映像が見られるんだよ」
 閃理が説明した。
 このレースのドローンは本体が直線的でF1マシンのようだった。本体とプロペラをつなぐ四本のアームが光っている。

 合図とともにスタートした。
 上昇したドローンはウオーン! と大きな風切り音を立てて光の輪をくぐり、急旋回し、直滑降する。勢い余ってコースアウトしたり、中心の鉄塔にひっかかったりするドローンもいた。
 編集でときおり入るドローン視点の映像はぐらぐらしていて、見るだけで酔いそうだった。

「こんな速いんだ」
「レース用ドローンだと170キロ出るやつもあるよ。こんなやつを征武は平気でやるんだ。世界大会にも出場してる」

「すごいのね」
「レースチームにも誘われたのに、断って僕と仕事をしてくれてる。レースはプロとして続けてて、両立できてるのがすごいよ」

「私には二人ともすごいしか言えないわ」
「ありがとう。あいつは俺が編集をしてくれるから楽だって笑うけど」

「じゃあ、編集は全部あなたがやってるのね」
「そう……だけど」
 ふと気づいたように、閃理は雪音の顔を自分に向けさせた。

「雪音さん、僕のこと名前で呼んでくれないよね」
「そういえば、そうかも」
 ねえ、とかなんとか、ずっとそういう呼びかけ方だった気がする。

「名前、呼んで?」
「風泉さん」
「そっちじゃなくて」
「……閃理さん」
 言いながら、雪音はうつむく。改まって呼ぶと、なんだか照れ臭い。
「かわいい」
 ふふ、と笑って閃理は雪音を抱きしめた。
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