私と彼の溺愛練習帳
夕食後、閃理は仕事部屋にひきこもった。
雪音はテーブルのパンフレットに気が付き、手に取った。
結婚式場のパンフレットだった。
どきっと胸が鳴った。
自分のものではない。ということは、閃理の持ち物だ。
動揺していると、閃理が歩いて来た。
「あ、ここにあった」
閃理は平然とそれを手にする。
雪音はどきどきして彼を見る。
気づいた閃理は苦笑した。
「これ、仕事のやつ。宣伝動画を作ることになってさ」
「そうなんだ」
ほっとした。が、心のどこかに残念な気持ちがかすかにあった。
「あからさまにほっとされると悲しいな」
閃理はまた苦笑する。
「今度、雪音さん連休になってたよね。撮影につきあって。式場とは別のやつね」
「え?」
「もう宿の予約もしたし。キャンセルすると料金が発生するから、一緒に来て。なにもしないから」
「強引ね」
「そうしないと来てくれないでしょ?」
雪音の頬にキスをして、閃理は戻った。
頬に手を当てて、その後ろ姿を見送る。
彼になら大丈夫かもしれない。……きっといつか。
それは遠くない未来のように思え、雪音はそっと目を閉じた。
雪音の平日の二連休に、閃理のハイトワゴンで出発した。
行き先は山梨の昇仙峡だった。
道路脇には雪が積もっていたが、路面の雪は溶けていた。
駐車場に車を停めて、だけど閃理はなにも持たずに車を降りた。
「撮影は?」
「最初は下見で歩く予定。その前にごはん食べよう」
二人は近くのお食事処に入った。
ほうとうをおいしく頂いた。太くて平たいもちもち麵が味噌で煮込まれていておいしい。かぼちゃがしっとりほくほくしていた。
腹ごしらえをしたあとは、目的地に向かって歩いた。