私と彼の溺愛練習帳
 徐々に左側に川が迫ってきた。防寒をしっかりしてきたのに、それでも少し寒く感じた。
 自然にあふれた道だけど、「峡」というほどではないような。
 そう思っていたときだった。
 少し開けたところに出た。
 そこから見える岩はごつごつしていて、迫力があった。

「あれが覚円峰だね」
 閃理が指さす。
 木々の茂る山にまっすぐに岩が突き出していた。にょっきりと白灰色の岩肌を見せ、白い雪をかぶっていた。

「覚円法師がそこで修行をしたのが名前の由来なんだって」
 パンフレットを見て閃理が言った。
 小さな橋を渡ると、がらっと雰囲気が変わった。

 人が二人分ほどの狭い路の右手に山の岩肌が迫り、木々が頭上を覆う。左手にはごろごろした岩の転がる川。冷たい空気に湿り気を帯びた地面の匂いが混じった。

「いいね、こういうの」
「だよね」
 閃理は目を細めた。

 石門と呼ばれる巨石があった。
 大きな岩でできたトンネルのようになっているのだが。
「この岩、浮いてる!」
 雪音は驚いてスマホで撮影した。
 上からトンネルの屋根のように岩が張り出している。一見して下の岩と接しているように見えるのに、よく見ると少しだけ離れている。

「面白いね」
 閃理も一緒に撮影し、二人で自撮りもした。
 最後には滝が二人を出迎えた。仙娥滝(せんがたき)だ。
 長い階段をのぼる途中、雪音はあっと声をあげる。

「虹よ!」
 滝のたもとに、虹ができていた。
「きれいだね」
 二人でまた写真を撮った。
 長い階段を上り、ゴールのような鳥居をくぐる。
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