私と彼の溺愛練習帳
 覚円峰で上昇し、周回して岩山を収める。何周もするのは一番いい絵面を使うためだ。
 ドローンを戻すとバッテリーを交換して再度飛ばす。今度は上空ばかりの空撮だった。
「撮影って大変」
 思わず雪音はつぶやいた。



 撮影を終えて片付けているとき、雪音はお手洗いに行くためにその場を離れた。
 その隙に、征武は閃理にきいた。

「お前、彼女に自分のこと話した?」
「んー、ちょっとは」
「ちゃんと話しておけよ。あとから知ったらショックじゃね? 一緒に住んでるんだろ? フランスの女の人のこと、ケリつけたのか?」
「んー」
 ドローンを片付けながら、閃理はあいまいな返事をする。

「言いたくないのもわかるけどさ」
「……余計なこと言うなよ」
「言うかよ」
 ノートパソコンを閉じて、征武は息をついた。



 雪音がお手洗いから帰ると片付けは終わっていた。
 荷物を征武が乗って来た車に乗せた。彼は二人を下流の駐車場まで乗せて行ってくれた。
「俺は別の宿だからこれで。レース友達に会うんだ」
 征武は車で去って行った。

「僕たちも行こうか」
 雪音はどきっとした。
 男女が二人で宿に行く。ということは、普通は同じ部屋だろうし、ということは。
 ふふ、と閃理が笑った。

「なに考えてるか、当てようか?」
「やめて……」
「大丈夫。なにもしないから」
 閃理はふんわりと笑う。
 雪音はどきどきしながらうなずいた。
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