私と彼の溺愛練習帳
食事は部屋でとった。
食器を返したあと、広縁に椅子を並べて山梨県産のワインを一緒に飲んだ。
赤くなった雪音に寄り掛かられ、閃理は肩を抱く。
「雪音さん、アルコールに弱い?」
「あんまり飲んだことないの」
閃理は笑みをこぼして頭を撫でる。力なくふにゃっと体重を預けられ、それが無心の信頼のようでうれしかった。
雪音のとろんとした目が閃理を見て、口を開いた。
「好き」
閃理は動揺し、思わず彼女を抱きしめた。
今まで、彼女はその一言を言ってくれなかった。態度で好意を示してくれるが、なにかを怖がるようにその単語を避けていた。
彼女はいつも唐突だ。生い立ちがそうさせるのかもしれないが、閃理は驚かされてばかりだ。
「愛してる」
閃理がささやくと、雪音は猫のように頭をこすりつけてきた。
「私も」
閃理はこらえきれずに雪音に唇を重ねた。閃理がかき乱すと、彼女の喉から声がもれる。
大丈夫、と彼女は言ってくれた。
ならば、彼女と一つになることを今からでも許してくれるだろうか。
唇を離すと雪音はにこっと笑った。次いで、かくっと首が垂れた。
「え?」
とっさに彼女を支える。と、すでに寝息を立てていた。
閃理は、はあ、と大きく息をついた。
「期待させておいて」
彼女を抱きかかえて運び、優しくベッドに横たえる。
「S'il te plaît, ne me laisse pas」
閃理がつぶやく。
うん……と雪音から声が漏れる。
閃理はまた苦笑して、寝顔を眺めた。
翌日は雪の予報だったので、どこにも寄らずに帰った。
雪音は高速のSAでほうとうを買った。
家に着くと、日常に帰って来た安堵と落胆が胸をよぎる。
リビングに荷物を置き、ため息をついた。
「明日からまた仕事かあ」