初めての溺愛は雪の色 ~凍えるため息は湯けむりにほどけて~
「そうだね。会えるけど会えてないみたいな、不思議な距離感かな」
 オフィスで会える分、むしろもどかしく苦しくなる。
 貴斗のときはまったく別の部署だったので、こんな気持ちにはならなかった。

「あ、これ、オフィスラブもの」
 順花は紙袋に入ったマンガを貸そうとしてくる。
「ごめん、今はそういうのを読む気分になれない」
「面白いのに。ちらっとでも見てみなよ」
 言われて、仕方なく袋の中を覗く。と、本につけられた帯が見えた。

『駄目なのに。誰もいない夜のオフィスで彼と……』
 煽り文句だけで、やっぱり無理だと思った。彼に押し倒されたことを思い出してしまう。

「やっぱり無理」
「あれえ。顔が赤いよ?」
 にやにやと順花が笑った。
「放っておいて」
 初美はそれしか言えなかった。



 食堂から帰る途中、貴斗に待ち伏せされていた。
 どうしてもそこを通らなくては企画室に入れない。昼休憩の時間はもう終わりだから、どこかで時間を潰してくることもできない。

 仕方なく、通ろうとした。
 が、やはりただでは通らせてもらえなかった。
「待てよ」
 通り道を塞いで、貴斗は言った。
「あいつが何者か、お前は知ってるのか?」
 初美は訝しげに彼を見た。

「やっぱり言ってないのか」
 ふん、と貴斗はせせら笑う。
「どういうこと?」
「お前、遊ばれてるぞ」
 遊んだ本人に言われても。

「あなたには関係ないです」
「忠告してやってるのに」
 貴斗は初美の腕をつかみ、壁に彼女を押し付ける。
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