初めての溺愛は雪の色 ~凍えるため息は湯けむりにほどけて~



 順花とカフェに行った初美は、はあ、と大きく息を吐いた。
 順花は聞かされた話に唖然としていた。
「まさかあんたが来島部長とつきあってたとは」
「内緒よ」
「当然。巻き込まれたくないもん」
 その返事に、がっくりとうなだれる。

「よりを戻そうとした上に、よりによってあの瑚桃と付き合うとか、なに考えてんだろうね」
「さっぱりわかんない。怖い」
「あの瑚桃と付き合えるってだけで神経わからんわ」
「もしかしたら仁木田さんが思い込んでるだけかもしれないけど……」
「でも指輪もはめてたんでしょ?」
「うん……」
「さすがに指輪を買ってまでそんな嘘は言わない……とも限らないのか。あの子は独特すぎて読めない」
 順花は腕を組んで、うーんとうなった。

「石室さんだっけ? 新しい彼氏はいろいろわかっててリングもくれたんでしょ?」
「リングが先で、そのあとに来島部長とつきあってた過去がバレて……」
「でも、変わらず愛してくれてるんでしよ? なにを悩んでるの?」
 初美は言い淀む。

 あいつが何者か知っているのか。
 貴斗のそのセリフが気になっていた。
 だが、それを人に言ってもいいのだろうか。脅してくるくらいだから、きっと良くないことに違いない。

 たとえば彼が前科者だったり。身内に前科者がいたり。もしそうなら、周囲に知られたら彼の足かせになるだろう。自分も、それを受け入れられるのか、わからない。

「なにかされそうで怖くて」
 初美はなんとかそれだけを言った。
「うーん、来島部長にしても瑚桃にしても、飽きるのを待つしかない気がするけどなあ。来島部長はすぐに飽きてくれそうだけど、瑚桃はなぜかあんたにはしつこいからなあ」

「そうよね……」
 結局、順花に相談しても事態は変わらない。だが、話を聞いてもらえただけで、なんだか心は軽くなった気がした。
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