初めての溺愛は雪の色 ~凍えるため息は湯けむりにほどけて~
「女に恥をかかせるの?」
「あなたは俺に恥をかかせる気なんだな」
 言い返されて、未麻はムッとした。

「俺には待ってる女がいる。あなたなど足元にも及ばない。彼女に恥をかかせる気はない」
 言い捨てて、蓬星は店をあとにした。

「なによあれ」
 未麻は貴斗に文句を言う。
「お前のお望みの真面目な男だよ」
 貴斗はモスコミュールを一口飲む。辛口のジンジャーエールで作られていて、彼の好みだった。

「火遊びなんかしないヤツだよ。結婚するにはちょうどいいんだろ? お前にはもの足りないだろうけどな」
「まあね。でも遊びなら外ですればいいから」
「悪い女だ」
 貴斗は彼女の腰に手を回す。

「あなたほどじゃないわ。恋人にヤってるところを見せるだなんて。ショックでもう恋なんてできないんじゃない?」
「ところがそうでもないんだよ。あいつが新しい男でさ」

「で、惜しくなっちゃった?」
「あいつのものを盗ってやるのが楽しそうってだけだ」
「ま、どちらでもいいけど。落としがいがありそうだし」
「あいつの祖父はな……」
 言われて、女は目を輝かせた。

「ますますいいじゃん!」
「だろ? 紹介してやったんだから、今夜は……」
「いいわよ。私達、相性ばっちりだし。見られてヤるのも興奮したわ。結婚してもまた会いましょう」
「悪くない提案だな」

 未麻を膝に乗せ、貴斗は彼女と濃厚なキスを交わす。
 モスコミュールの氷が溶けて、からん、と音がした。
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