初めての溺愛は雪の色 ~凍えるため息は湯けむりにほどけて~
出勤時、初美は憂鬱な気分で猫背になりそうだったが、懸命に背を伸ばしながら歩いた。
私はなにも悪いことはしてない。落ち込む必要はない。悪いことはまだ起きてない。悪い予感に負けちゃ駄目だ。
そう思って背筋を伸ばし、企画室に入る。
「おはようございます」
周りに声をかけて席に着く。
「おはようございます、先輩」
瑚桃がにやにやしながら現れた。
「先輩、営業からアイディアを盗んだんですかぁ?」
「何言ってるの」
瑚桃の発言に、初美はあっけにとられた。朝っぱらから変な絡み方をしてくる彼女にうんざりした。
「営業の人から聞いたんですけどぉ。これからはVRゴーグルを使うって。実際にそのお風呂に入っているかのような感覚が味わえるから、まだ形になってない商品を勧めやすいって。それを聞いてアイディアを盗んだんじゃないですかぁ?」
VRゴーグルをつけてお風呂に入る。それ事態は、調べたからもうすでにあるとわかっている。が、思いついたのは自分自身の力だ。断じて盗用ではない。
「人聞きの悪いこと言わないで。自分で考えたのよ」
言いながら思い出す。自分が出したアロマキャンドルのアイディアも、ちょうど最近被っていた。
どうしてそんなことが起きるのだろう。
「じゃあなんでこの時期にかぶるんですか。おかしくないですかあ?」
「彼女がVRゴーグルの話をしたときには私もいたよ。絶対にパクリじゃない」
いつの間に来たのか、蓬星が横から口を出した。
初美はホッとした。そうだ、あのとき蓬星が横にいた。これ以上はない証人だ。
だが。
「グルですか?」
瑚桃は疑うように蓬星を見る。
揉めている三人に、周囲の注目が集まり始めた。
どうしよう。
初美は焦る。
このままでは無用な疑いが彼に向いてしまう。いっそ自分がやったと言えば彼には疑いが向かないのか。