初めての溺愛は雪の色 ~凍えるため息は湯けむりにほどけて~
「なんの根拠もないし、VRゴーグルは世間一般に出回って利用されているものだ。その一件だけをもって疑いをかけるなんて、あなたの品性を疑われるだけだよ」
 毅然として蓬星は言う。

「だけど! 貴斗さんが!」
「来島部長が何?」
 きつく睨まれて、瑚桃は黙る。
「あなたの発言は目に余る。軽率な発言は控えるように」
 冷たく言われて、瑚桃は黙って(きびす)を返した。

「芦屋さん。あなたも」
 初美はビクッとした。
「根拠のない疑いにいちいち動揺していては相手の思うツボだよ」
「……はい」
 注意されて、初美はしょげた。そのとおりだ。いつもいちいち動揺して、だから瑚桃はそれを面白がるのだ。きっと、貴斗も。

 蓬星にあきれられただろうか。いい年してあんな年下にいいように振り回されるなんて。
 聞くこともできず、初美は憂鬱に始業を迎えた。
 平然と仕事をする蓬星の横で、精一杯に平気なフリをして、仕事に取り組んだ。



 瑚桃は隙を見て貴斗に電話をした。
「貴斗さーん。全然、効果なかったみたいですよぉ」
「ふうん……。まあそれくらいでびくともするようなやつなら、この会社に来ねーか」
「え?」
 瑚桃が聞き返すが、貴斗は答えない。

「ありがとう、もういいよ」
 貴斗はそう言って電話を切った。
 頭の悪い女だ。ちょっと誘って指輪を買ってやったらそれだけで頼みをほいほい聞いてくれた。
 だが、もう用済みだ。頭の悪さからして、これ以上に近づけたらこっちの身が滅ぶ。

「まずはあいつを……」
 貴斗はにやりと笑った。蓬星からおもちゃを取り上げるのは、何より楽しそうだった。
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