初めての溺愛は雪の色 ~凍えるため息は湯けむりにほどけて~
「正式に蓬星さんが室長代理になったんですよね。お仕事忙しくなりますよね」
「俺のことはいいんだ」
「頑張ってください」
 言って、初美は蓬星の隣に移動した。初美はそのまま蓬星の唇に自分の唇を重ねる。
 どきどきした。しらふで、しかも会社で自分からキスをしたのは初めてだったから。

 蓬星は驚いたようだが、すぐに濃厚なキスを返した。
 唇が離れると、初美は蓬星を見つめた。
 彼もまた彼女を見つめ返す。
 彼の悲しいまなざしに、初美の胸が痛んだ。

「私……今夜、会いに行ってもいいですか?」
 どきどきしながら言った。自分からお誘いをするような発言は初めてだった。勇気が必要だった。なのに。
「……今夜はやめておこう」
 蓬星は冷静に返す。

「新しい部署に慣れて落ち着いたら。そしたらまた会おう」
「そうですね」
 それはいったいいつになるのだろう。
 せっかく勇気を出したのに。
 気持ちがぺちゃんこになった気がした。

「樹氷って見たことある?」
 気遣うように蓬星が言う。
「ないです」
「迫力があっていいよ。今度一緒に見に行こう。コネで宿代なしで泊まれるところがあるんだ。温泉露天風呂もある。交通費は俺が出すから」

「自分の分は自分で出します」
「それくらい甘えてくれてもいいのに」
「だめですよ」
「スノーモービルには乗ったことある?」
「ないです」
 乗車体験を予約していたが、キャンセルして帰ってしまった。

「じゃあ、俺と初めてだ」
「初めてって」
 初美が困惑すると、蓬星はくすりと笑った。
「運転、できるんですか」
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