初めての溺愛は雪の色 ~凍えるため息は湯けむりにほどけて~
「初美……。こうなる前に、俺は言うべきだった」
 悔恨をにじませ、貴斗が言う。
「話ができるところへ行こう。もちろん、変なところじゃない」
 初美は答えることができず、ただエレベーターホールに立ち尽くしていた。



 気がつくと、初美は郊外のレストランの個室に連れられていた。
 和風の造りだった。ガラス越しに庭があった。砂利がしきつめられ、苔むした岩がある。石造りの水盤に竹筒から水が流れ、植えられた笹の緑が目に麗しい。

「食事はとれそうか?」
 聞かれて、初美は首を横に降った。
「だが、少しは腹に入れたほうがいい。おかゆを作ってもらおう」
 そんなことできるのか、と疑問に思ったが、聞く気力はなかった。彼が店員におかゆを頼むと、本当に出てきて少し驚いた。

「言っておくが、これはメニューにないからな」
 微笑して、彼は言う。
 二人でおかゆをすすった。優しい味だった。

「美味しい……」
「良かった。あとで料理長に言っておくよ」
 貴斗の口調はあくまで優しい。
 こんなときでもちゃんと美味しいってわかるんだ、と自分に驚いた。それとも、一流のお店だからだろうか。その正解は初美にはわからない。

 食べ終わると、ぬるめの緑茶と一口サイズの小豆ムースが出された。花の形をしていて、可愛かった。甘じょっぱくて、これも美味しかった。

 緑茶を飲んで息つくと、貴斗はじっと初美を見た。
 本題だ、と初美は貴斗を見た。

「なにから話そうか」
 貴斗はテーブルの上に肘をつき、両手を組んだ。その上に顎を乗せ、貴斗は話し始めた。
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