初めての溺愛は雪の色 ~凍えるため息は湯けむりにほどけて~
 あいつに出会ったのはまだ子どもの頃だ、と貴斗は言った。
「あいつは子どものころから嫌味なやつだった。優秀さをひけらかして周りの関心を買っていた」
 初美はけげんに貴斗を見た。今の蓬星からは 微塵もそんなふうには感じられない。そもそも、どうして子どもの頃をしっているのだろう。

「大学で再会したときも、あいつはなにかと俺に張り合ってきた」
「そんなふうには見えないけど……」
「取り繕うのがうまいからな、あいつは。女もとっかえひっかえで、出会ったその日に……なんてこともあったみたいだ」
 初美は目を見開いた。
 自分もまた、出会ったその日に彼と結ばれた。あれは、彼からしたら当たり前のことだったのだろうか。
 確かに、女性に慣れている感じがした。

「どうして俺があいつの子どもの頃を知ってるのか、気にならないか?」
 貴斗は言う。
 どうして、と聞かれるのを待っている。きっと良くない答えが待っている。
 それを聞く覚悟なんてできていない。それでも初美は聞かずにいられなかった。

「どうして?」
「あいつは、TODOの創業者、東堂浩志の孫だ」
「え!?」
 予想外の答えだった。裏があるかのように言うから、てっきり犯罪とかそっちの過去があるのかと思いこんでいた。

「従兄弟なの?」
「そういうことだ。親父の姉があいつの母だ」
 そんなこと、蓬星から一度も聞いたことはなかった。
「あいつから聞いてなかったのか?」
 初美はうなずく。

「やっぱり……あいつは初美を弄んだんだ」
 初美の顔から血の気がひいた。
 蓬星のくすりと笑う笑顔が浮かぶ。
 彼はその笑顔の裏で、嘲っていたのだろうか。まんまと蓬星にはまっていく初美を。あの優しさも熱い夜も、なにもかも嘘なのだろうか。
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