初めての溺愛は雪の色 ~凍えるため息は湯けむりにほどけて~
「クズダイヤは、どれだけたくさんあってもクズだ。価値は上がらない。お前はこんなクズダイヤで終わらせられるような女じゃない」

「私が買ったんです。クズとか言わないでください」
「あんな男に義理立てるのか?」
「……私の恋人は蓬星さんです」
 少なくとも今はまだ。
「お前が泣くのを見たくないんだ」
「泣こうが泣くまいが、私の勝手です」
「……今にも泣きそうな顔をしている」
「さんざん私を泣かせたくせに! なんで今さら!」

「……そうだよな、ごめん」
 貴斗は初美を離した。
「帰ろう。タクシーに送らせる」
「いらないです。一人で帰れます。ごちそうさまでした」
 言って、初美は席を立った。

 後ろ姿を見送り、貴斗は嘲笑を浮かべた。
「いつまで強がりが続くのかな」
 くくっと笑いをもらし、彼も席を立った。



 目を覚ました蓬星は、見知らぬ景色に戸惑った。
 どこだ、ここは。
 眉をひそめる。だるい眠気がまだ頭に残っていて、重く感じた。
「おはよう。いい朝よ」
 女の声がした。
 そちらに目を向け、さらに眉を寄せた。
 バスローブを羽織った女がいた。その胸元は谷間が見えている。茶色のロングヘアに見覚えがある気がした。

「あなたは……」
「未麻よ。あんなに熱い夜を過ごしたのに忘れたの?」
 言って、彼女は蓬星のいるベッドに腰掛ける。
 蓬星は半裸だった。上着もシャツも脱ぎ捨てられ、乱雑に床に落ちている。ボトムは履いていたが、やはり寝乱れた様子があった。

 蓬星には昨夜の覚えがなかった。
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