初めての溺愛は雪の色 ~凍えるため息は湯けむりにほどけて~
 が、そのあとの記憶がまったくない。
 たった一杯で酔うほど弱くはないし、あのカクテルはそこまでのアルコールは入っていないはずだ。なのになぜ。

 とにかく自分はまんまと罠にはまったのだ。
「どう取り繕っても結果は変わらないのよね?」
 女はくすくすと妖艶に笑う。
 その指で蓬星の顎をついと持ち上げる。

「また会えるわよね?」
「断る」
 蓬星は女の手を振り払い、ベッドから降りた。シャツを拾い、着る。
「大事な彼女とやらに言うわよ」
 蓬星は一瞬、言葉に詰まる。が、覚悟を決めたように吐き捨てた。
「好きにしろ」 
 上着を羽織り、部屋をあとにする。

 どうしてこうなったんだ。
 エレベーターで下りながら、蓬星はひたすら考え続けた。



 憂鬱な気持ちで出社して、初美はため息をついた。
 事務に戻りたい。
 平和にきっちり仕事をして帰っていた。
 貴斗に頼んだら戻してもらえるだろうか。

 思って、首をふる。彼に頼んだらどんな代償を請求されるかわからない。今は優しそうにしてくれるが、付き合う前もそうだった。自分はあのとき、まんまと騙された。同じ轍を踏んではならない。

 ならいっそ、やはり辞めてしまおうか。
 悩んで、結局、順花に相談することにした。
 仕事が終わってから、二人でカフェに行く。
 話を聞いた順花はただただ驚いていた。

「ホテルのエレベーターに乗り込む二人かぁ。マンガなら、実は誤解でした、って展開だろうけど」
「マンガなら多いよね、そういうの」
「でもさ、実際に部屋に入るのをみたわけじゃないんでしょ?」
「うん……」
「本人に聞いた?」
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