初めての溺愛は雪の色 ~凍えるため息は湯けむりにほどけて~
 だけど、見ずにもいられなかった。
 初美はそれを開く。瞬間、取り落とした。
 テーブルの上に落ちたスマホの画面を見て、順花も息をのむ。

 男性の上半身裸の写真だった。蓬星だ。彼は眠っているようで、目を閉じていた。無造作な黒髪が白いシーツに垂れている。女の手がその胸に伸びている。指先にはキラキラしたストーンのついたピンクのネイルが施されていた。

「これ、まさか……」
 順花がつぶやく。初美はうなずいた。
 蓬星の写真だった。
「ほ、ほら、マンガならこのあと誤解だったってわかるじゃん。画像が合成でした、とかさ! きっと誤解だよ」

 慌てて順花が言う。初美はため息をついた。彼女なりのフォローのつもりなのはわかる。だけど、こんなときにまでマンガになぞらえて言われたくなかった。

「ごめん、今日はもう帰るね」
「……うん」
 初美は画面が暗くなったスマホを手にとった。
 もう蓬星には会えない、と暗い気持ちでため息をついた。



 初美に言わなければならない。
 そう思うのに、翌日になっても蓬星は言えずにいた。
 一人暮らしのマンションに戻り、着替えもせずにブランデーをグラスに注いだ。カウンターにもたれ、それをぐっと飲む。

 アルコールが喉にカッと熱を与えた。
 初美のかわいらしい笑顔が思い出される。

 出会いは衝撃的だった。まさか、裸の女性に遭遇するとは思わなかった。痴漢と間違われてお湯をかけられ、そんな女性と一夜をともにすることになるなんて、旅に出る前には予想もしなかった。

 恋人に裏切られたと、あのときの初美は怒っていた。初めて合う男に身を任せるほど、傷ついていた。

 女性は男性に傷つけられたとき、あんなことは平気なんだ、なんでもないことなんだと思うために男性に身を任せてしまうことがあると、そう聞いたことがある。心の防衛の一種だ。それを知ったのは初美と出会ったあとだった。

 彼女はそれほど傷ついていたのだろう。
 なのに、自分が同じ過ちを犯してしまった。
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