初めての溺愛は雪の色 ~凍えるため息は湯けむりにほどけて~
 覚えはまったくない。が、状況からして事後だろう。
 あの女は初美に言うだろう。その前に初美に別れを告げなくてはならない。そうでなければ、彼女はまた傷ついてしまう。浮気をしてから別れを告げるのだけはやめて。そう言われているのだから。

 こんなことで。
 蓬星は自分の迂闊さを呪った。
 こんなことで愛を失うことになるとは、思っても見なかった。貴斗がなにかを仕掛けてくると、そうわかっていたはずなのに。
 彼女の異動も防げなかった。会社の立場が違うということはそんなにも無力なのか。彼女を守るために、もっと力が必要だった。

 後悔しても遅い。
 貴斗はどうでるのか。
 初美は自分と別れたあとはあいつとよりを戻すのか。
 おそらく、初美の意志で戻ることはないだろう。だが、貴斗は……。

 別れることになってもいい。とにかく初美を守らなければ。
 朝のうちに蓬星は初美にメッセージを送った。
 話がある。会いたい。
 ただそれだけを送った。

 その日の夜遅く、返事は来た。
 今は無理。
 ただ一言、それだけだった。
 それだけで、あの女から接触があったのだとわかった。
 蓬星は不甲斐なさに唇を噛み締めた。


 
 翌日から、初美からの連絡は途絶えた。
 着拒はされていないようだった。それが彼女の迷いを表しているようで、かえって切なかった。
 蓬星もまた連絡を取らなかった。初美が決めることだ、と思ったからだ。

 しかし、納得がいかない。
 企画室でいつものように仕事をしながら蓬星は頭の隅で考える。
 大の男一人、どうやって部屋に連れ込むと言うのか。意識がなかったのはどうしてなのか。
 思い至るのは一つ。
 昼休みにロッカーに行き、スマホで検索をかける。
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