初めての溺愛は雪の色 ~凍えるため息は湯けむりにほどけて~
 睡眠薬。
 服用後には通常の行動をしていても記憶が飛ぶことがあるという。
 さらに、睡眠薬はお酒に溶かすと青くなるものが多いという。
 出されたカクテルは青かった。薬が入っていてもわからない。

 ならば、あのバーテンもグルか。
 まさか男の自分が薬をもられてホテルに連れ込まれるとは思わなかった。
 睡眠薬を使ったなら、女との行為自体はなかっただろう。だが、どちらにせよ証拠はない。
 こんなことで言い訳をしても、初美の心についた傷は消えない。

 下劣な手段をとるものだ。人を平気で傷つける。いや、彼らには自分以外は人ではないのだろう。いいとこおもちゃだ。
 守りに徹していてはだめだった。隙をつかれて崩された。

 だが、まだ最後まで潰されたわけではない。
 ただ一つの守るべき存在。初美を守らなくてはならない。
 そっちがその気なら……。
 蓬星は目をぎらつかせ、スマホをにらんだ。



 ふん、と未麻は鼻を鳴らした。
 マンションの自室で、貴斗からの電話を切ったところだった。
 ソファに座り、スマホをテーブルに置く。
 初美とかいう女はすっかり弱っているらしかった。食べごろかな、と貴斗は笑っていた。

 性格の悪い男だ、と未麻は微笑した。悪いからこそ、面白い。
 手玉にとった女の話を聞くのも好きだった。純朴といえば聞こえはいいが、未麻からしたら頭の悪さを言い換えたようにしか思えなかった。

 自分は馬鹿な女とは違う。ハイレベルな自分にはハイレベルな男が必要だ。
 だからといって貴斗みたいな男とは結婚したくない。貴斗とは遊び仲間で、だからこそ楽しいのだ。

 貴斗はいつも未麻を乱暴に抱く。未麻はそれが好きだった。ワイルドで、興奮する。だが、最高のセックスではない。ましてや結婚相手にはならない。

 結婚するなら、自分を崇拝し、自分の言うなりになる男がいい。
 だけど、と蓬星を思い出して未麻は思う。
 彼みたいなのを支配するのも楽しいかもしれない。言うことのきかない男の弱みを握り、屈辱にまみれた姿を見るのはきっと楽しい。

 貴斗から、蓬星がどんな男なのかは聞いていた。
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