初めての溺愛は雪の色 ~凍えるため息は湯けむりにほどけて~
蓬星が指定したバーに、未麻はおしゃれをして訪れた。
広さはそれほどなかった。カウンター席があり、テーブル席は三席ほど。
店内に入るとシルバーの木々が客を出迎える。橙色の温かな光が店内を照らし、木々も同じ色に染まっている。同じく銀色の木の葉がエアコンの風に揺れてきらきらと瞬く。
カンウターの中には様々な酒瓶が飾られ、LEDの光を受けて誇らしげに並んでいる。
合格、と未麻は思った。
ここで変な店を指定するなら、自分の夫にはふさわしくない。
「来てくれたね」
蓬星は微笑した。未麻もまた微笑した。
まだ早い時間のせいか、客は蓬星のほかにいなかった。
彼はカウンターのとまり木に座り、ブランデーを傾けていた。
なかなか絵になるわね。貴斗とは違う気だるげな感じがいいわ。
未麻は満足して、だけどそれを表に出さないようにした。さみしげで、だけど愛しい人に会えて嬉しい、そんな表情を心がける。
「もう会えないかと思ってたわ。あんなに手ひどく私をふったのだもの」
「あのときは、ね」
蓬星はそっと彼女の手を握る。
「俺が間違ってたんだと、今ならわかる」
おおかた、女にふられたんだろう。彼の裸の写真を恋人だという女に送った。それでふられて慌てて未麻に乗り換えようとしたのかもしれない。そんな男は今までいくらでも見てきた。
ならば、と未麻は思う。
まだ少し焦らさなくてはならない。そう簡単に手に入れられるほど、自分は安い女ではないのだから。普通なら乗り換えだとわかった時点でふっている。
「また間違いだと思い直すのかしら」
口元に笑みを浮かべ、目を細めて彼を見る。
「それはないな」
蓬星は答える。彼もまた余裕の笑みを浮かべていた。
もう私を手に入れたつもりでいるのかしら。
未麻は侮蔑を隠して彼を見つめる。