初めての溺愛は雪の色 ~凍えるため息は湯けむりにほどけて~
「よう、蓬星!」
 作業着の一人が蓬星に声をかけた。
 がたいがよくて荒々しい雰囲気だった。気性の荒さを隠そうともしない。いかつい顔にいかつい体。

「来てくれてありがとう」
 蓬星が答える。微笑をたたえて。
「お前に呼ばれたら来るさ」
 もう一人の男が、がははと笑う。
 品のない笑いに未麻は不快さを隠せなかった。

 どういうこと?
 未麻は驚いて蓬星と男を見比べた。
「この女か」
 男は値踏みするように未麻を見る。
「なにこの人」
「前の仕事の仲間だよ」
 蓬星はにやりと笑う。
 未麻の顔から表情が消えた。

「いい女を紹介してくれるって言われたんだよ」
「俺達を楽しませてくれる女だってな」
 男たちはにやにやと未麻を見る。
 気がつくと、バーにいる男全員が彼女を見ていた。あの筋肉の男も含めて。

「どういうこと」
 甘い恋のかけひきなら、むしろ歓迎だった。ゲームのようなそれは心地良い。だが、こんなのは想定外だ。
 未麻の心臓が鼓動を早くする。恋のときめきなんかではない。恐怖だ。

「お前と同じことをしただけだ」
 蓬星は口元だけに笑みを刻んだ。その目はぎらついて未麻をにらんでいる。
 ぜんぜん違う。
 言葉は声にならなかった。

 自分はただ睡眠薬を飲ませて、意識が朦朧している彼を部屋につれこんだだけだ。服を脱がせて偽装の写真を撮ったが、それ以上のことはしていない。

 なのに、彼はそれ以上の屈辱を自分に与えようとしている。
 品行方正ではなかったのか。貴斗はそう言っていたのに。品行方正で真面目でつまらない。
 そんな男がこんな罠を張り、こんなふうに女をいたぶるようなことをするのか。
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