初めての溺愛は雪の色 ~凍えるため息は湯けむりにほどけて~
「蓬星よう、ネーチャンの弱みって言ったらあれに決まってるだろ」
 男の一人が言う。
「嫌な思いさせられたんだろ、かわいそうに」
「そ、そうよ!」
 未麻はここぞとばかりに話にのった。
「あいつはいつも立場を利用して関係を迫るのよ。セクハラしてるのよ! 自慢気に言われたことあるわ!」
「例えば?」
 蓬星がたずねる。
「営業事務の子に関係を迫ったら辞めたとか言って笑ってたわ」
「名前は?」
「えっと……」
「思い出せないなら……」
「待って、もうすぐ思い出すから」
 言って、未麻は必死に考える。そんな雑魚な女のことなど、本当は覚えていない。男を利用できないバカな女だと嘲笑った記憶しかなかった。
 そうして、ふともう一人のバカな女を思い出す。
「あ! 芦屋初美を今日落とすって言ってたわ!」
 蓬星は顔をしかめた。
「どういうことだ」
「宮城の、人が来られない別荘かなんかに連れて行くって。あいつは馬鹿だから簡単に騙せるって言ってたわ。早く助けに行ったほうがいいんじゃない?」
 媚びるように、蓬星に言う。
 ほら、私は役にたったでしょ? だからひどいことなんてしないで。
 そう思って蓬星を見つめる。
 蓬星は未麻の視線など無視して考え込む。腕を組みイライラと足先を動かす。
「宮城の別荘だな?」
「そうよ」
 確認する蓬星に、未麻はうなずく。
「……仕方ない。あとは任せた」
 言って、蓬星は店を出ていく。
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