初めての溺愛は雪の色 ~凍えるため息は湯けむりにほどけて~
「ちょっと!」
 自分はちゃんと協力した。ならば、もう解放されるべきだ。なのに。
「ネーチャン、これからはお楽しみの時間だよ」
 男の一人が言い、未麻の肩を抱いた。
 未麻の顔から血の気が引いた。
 


 蓬星は店を出てすぐに東堂浩志に電話をかけた。
「頼みがある」
「お前が私に頼みとは珍しい」
 揶揄(やゆ)するように浩志は答える。

「一刻を争う」
「ただで望みがかなうと思ってはいまい?」
「わかっている。条件はすべて飲む」
「ほう? ならば……」
 面白がるように、浩志は条件を伝える。

 やはり、そう来るのか。蓬星は歯噛みする。だが、もはや猶予はない。早く行かなければ、後悔ですまない事態が待っている。
「条件は了解した。すぐにヘリを手配してもらいたい。それから……」
 浩志は蓬星の言葉を聞き、そのように手配をした。



 蓬星はすぐに近くのヘリポートに向かった。
 すでにヘリは待機している。
「東堂浩志様から仰せ使っております」
 待機していた男が言う。
「ありがとう」
 蓬星はヘッドセットを受け取り、ヘリに乗り込んだ。

 おそらく貴斗が向かったのは浩志が所有する山荘だ。確認したところ、浩志は貴斗から一晩借りたいと言われて了承したと言った。さらに、蓬星が浩志の出した条件をのんだことでヘリその他の手配もしてくれた。

 浩志が出した条件は蓬星の人生には足かせにしかならないものだ。だが、初美を助けるためならば、それくらいのことはいくらでものんでやる。

 ヘリならば宮城まで一時間ちょっと。新幹線より早くつく。
 それでも間に合うかどうかわからない。
 初美さん、どうか無事でいてくれ。
 蓬星は額に手を当てて祈った。
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