初めての溺愛は雪の色 ~凍えるため息は湯けむりにほどけて~
蔵王連峰に向かったタクシーはスキー場に着くと二人を降ろした。もう日が暮れようとしている。
「スキー場に温泉があるんですか?」
「このさらに奥だ」
スキー場の奥に、この時間から。
スキー場に来るような格好をしてこなかった。スーツの上にコートだから寒い。
そこからは雪上車に乗っての移動だった。
雪上車はバスのように大きくて、キャタピラがついていて、まるで工事車両のようだった。
「これに乗っていくの?」
「これでないと行けないからな」
たった二人のためにこんな大きな乗り物を使うのか、と初美は戸惑った。
貴斗は平然と乗り込み、初美は仕方なく続いた。
順調に昇っていき、樹氷のある場所に到達する。
「すごい……」
思わずつぶやいていた。
大きな雪の角のようなものが数え切れないほどニョキニョキと生えていた。
大雪原に現れた樹氷の柱たちがライトアップされ、緩やかな虹色のグラデーションに輝いていた。
「これをお前に見せたかった」
貴斗に言われて、初美は振り返る。
暖房の効いた雪上車を降りると氷のような空気に肌がピリッとした。
が、それ以上に樹氷の迫力に心を奪われた。
樹氷は背が高く大きかった。少し斜めになっているのは風と雪の重みの影響だろうか。形は均一ではなかった。それがまた面白い。悩む人のようであったり、隣同士で話すようであったり、怪獣のようであったり。
面白いと思う反面、凄然として見えた。おそらくは自分の気持ちのせいだろう。
蓬星さんが誘ってくれたのに、先に見ちゃった。しかも、よりによって貴斗に連れ出されて。
そう思い、胸が痛んだ。