初めての溺愛は雪の色 ~凍えるため息は湯けむりにほどけて~
 結局、蓬星とはまだ話をしていない。誤解だよ、と焦ったように言う順花が思い出される。
 そうだったらいいのに。
 あの写真が合成とか、そういうものだったらいいのに。

「あいつのことを考えているのか?」
 貴斗に聞かれて、うつむく。
「どんなに気分転換に連れ出そうとしても、俺には結局は初美の気持ちを晴らすことはできないんだな」
 悲しそうに貴斗は言う。

「……ありがとうございます。でも、もうやめてください。あなたにふさわしい人はほかにいると思います」
「俺にはお前以上の女は考えられない」
 初美は静かに首をふった。

「……そろそろ行くか」
 やっとこれで帰れる、と初美はホッとした。今からだと東京に着くのは何時になるだろう。
 そう思いながら雪上車に乗ると、雪上車は山を下ることなく移動を始めた。

「どこへ行くんですか?」
「仕事に来たと言っただろ?」
 もう日も暮れたというのに、これから仕事に行くとは。いったいどこへ。
 初美は不安に窓の外を見た。空はすでに夜が支配しているが、地上は雪のせいで仄白(ほのじろ)かった。

 日帰り出張は嘘だったんだ。
 悟ったが、どうしたらいいのかわからずに初美はぎゅっと拳を握りしめた。
 どうか本当に仕事でありますように。
 神がどこにいるのかわからないが、ひたすらに祈った。
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